『Woodstock '99』(音楽フェスティバル) - 会場篇 -

会場となったのはニューヨーク州北部のローム (イタリアのローマと同じスペル) という小さな町にある旧空軍基地なのだが、これが非常に大きい。会場内の 2 つのメインステージは歩いて 20 分ほど (2km 弱程度) 離れていた。シャトルバスなどあるはずはなくて、自分の足でてくてくと歩くのである。見たいバンドがそれぞれのステージで交互に演奏するスケジュールになっていたりするとつらい。初日は観たいバンドがどこでいつから始まるか全然わからなかったので (スケジュール入りのパンフレットを配っていた、というのは後でわかったのだが、二日目に取りに行くとすでになくなっていた)、5 回も 2 つのステージを往復する羽目になった。

これに加え、駐車場 (バスで行く予定が寝過ごしたので車で行くことになった。片道 7 時間弱のドライブ) から会場までは徒歩で 40 分。またテントを張ったキャンプサイトから 2 つのステージへは 20 分。もう、ただひたすら歩いていたという記憶が非常に強く、いまでもヒザのあたりがなんとなくだるいような気がする。

おまけにひたすらに良い天気である。3 日間を通じて、雨が降ったのはほんの一瞬 ( 2 日目の早朝と 3 日目の夕方) だけで、あとは 30 度を超すクソ暑い天気だった。T シャツを脱いで上半身裸で歩き回っていたせいで、久しぶりに (部分的だけれど) 真っ黒に焼けた。

上半身裸、で思い出したけれど、全裸の人たちを何人か (3 日間で 30 人くらい) 見かけた。男性と女性の比率はというと、ほぼ同じくらいだった。周りの人々は初めはくすくす笑いながら通り過ぎる全裸の通行人を盗み観ていたのだけれど、次第に慣れてきて、最後の頃には「あ、またか」という感じで、単なるちょっと変わった人扱いに格下げされていた。そうして衣類を脱いで歩き回っていたのは、なにも全裸の人だけではない。上半身裸の男の人は珍しくともなんともないし (僕だってそうだ)、上半身裸の女の人も結構見かけた。それから下半身だけ裸の女の人をごくわずかだけれど見かけた。裸系の人々で一番びっくりしたのはそのうちの一人である。彼女は背中に "STAFF" と書かれた T シャツを着て、両足を広げ、お尻をキュッとつきだして立っていた。ふとしたときに彼女の姿が目に入ってきたので、自分がなにを見ているのかしばらく理解できなかった。まあ判ってからも何故彼女がそんなポーズで立っているのか、をしばらくじっと見つめながらも考えていたけど。このようにたくさんの人がいるところにそういうポーズで女の人が立っていると、ほとんどの人 (おそらく僕も含めて) がなんとも言えない不思議な表情をしているのである。

裸の人々で疑問だったのは、下半身だけ裸の男の人もいたっておかしくないはずだけれど、なぜか一人も見かけなかった。なんでだろう?

さて。こういうことを書いていると楽しそうな感じだけれど (まあ、楽しかったけれど)、困ったことももちろんある。会場内はどこもかしこもいろんなモノが散乱していてただひたすらに汚かったのである。そこにいる人間の数に対して、ゴミ箱の数が異様に少ないのである。飲んでいたコークの空きペットボトルはその辺に投げちゃうし、食べていたピザの空き箱もその辺に投げてしまう。それが 3 日間続くと膨大な量のゴミが会場全体にまんべんなく散らかってしまって、ゴミの中で生活しているような状態になっていた。

それから、ライブ会場にはペットボトルを観客席の前の方に投げる奴がいた。中身が入ってないと遠くまで飛ばないのでフタを閉めて投げていたようなのだが、そうなると当てられた方はたまったもんじゃない。僕も一度当てられたのだが、不意に鈍い衝撃を頭に感じ、しばらく何が起きたのかわからなかった。別にそんなに痛いものではないんだけれど、どうせならフタをとって投げてくれれば衝撃も少なくなるし、途中で水も飛び散って涼しいのに。

しかし。ペットボトルを投げるなんてまだかわいい方である。イベントのトリである Red Hot Chili Peppers のライブの前にある団体が観客にろうそくを配った。イベント最後のジミ・ヘンドリックス・トリビュートで使ってくれ、という意図だったようである。しかし、結果的にはこのろうそくを投げる奴が (ごく少数ながら) 存在して (これはちょっとびっくりした)、またそれによってたき火が始まり (これは想像に難くない)、結果的にはそれがトラックや売店の焼き討ちということになったような感がある。

『Woodstock '99』(音楽フェスティバル) - 音楽篇 -

3 日間で観た (またはすこし離れたところで聴いた) バンドは次の通り。

Jamiroquai
Sheryl Crow
The Offspring
George Clinton & P-Funk All Stars
The Bruce Hornsby Group
Dave Matthews Band
Alanis Morrisette
Chemical Brothers
Willie Nelson
Brian Setzer Orchestra
Elvis Costello
Jewel
Creed
Red Hot Chili Peppers

これ以外で見たかったのに見逃したバンド/ミュージシャンは James BrownMetallicaJames Brownウッドストックの開始時刻に間に合えばライブを見ることができたのだが (彼はオープニングアクトだった)、前にも書いたように車で会場に向かったために間に合わなかった。これは非常に残念。また Metallica は 2 日目のトリだったが、その頃にはステージまで歩いて行く体力がなかったのであきらめて Chemical Brothers を聴きながらビールを飲んだ。今考えると残念である。ちなみに Red Hot Chili PeppersGeorge Clinton & P-Funk All stars に参加した Bootsy Collins だけは過去に見たことがあるけど、残りは初見である。

初日。

まずは Jamiroquai から。彼らは意外に手堅いプレイをしていたのでちょっとびっくりした。もうすこしルーズなノリなのかと思っていたんだけれど。ヴォーカルの J の声はライブで聴いてもなかなかかっちょよい。ただ、Jamiroquaiアメリカであまり人気がない (日本じゃ SONY の宣伝にでてるけど) のと、バンドのノリがいささかこぢんまりまとまりすぎているきらいもあって、盛り上がっていたのは一部の観客だけだった。

Sheryl Crow はアルバムで聴くことができるような舌っ足らずさがライブでは薄まっていて、パワフルな声だった。これは良かった。3 日間で女性ヴォーカリストはこの Sheryl Crow と Alanis Morrisette と Jewel の 3 人を聴いたけど、その中では彼女が一番「場慣れしている」という感じがあって「コンサートしてるなあ」という感じであった。

The Offspring はライブの途中から。あんなに人気があるとは知らなかった。観客の 98 % は 10 代から 20 代の白人だったんだけれど、ほとんどが大合唱状態。ライブの途中で、突然「今日のスペシャルゲスト、Backstreet Boys (*)!!」というアナウンスとともに Backstreet Boys の曲がかかり、彼らのお面をつけたマネキン人形がステージ上に並べられた。何をするかと思えば、The Offspring のヴォーカルがそのマネキン人形をどこからともなく取り出したバットで殴りはじめたのである。これは僕を含めて、観客のほとんどが爆笑だった。

(*) Backstreet Boys : 男性 5 人組のヴォーカルグループ。アイドル的な人気があり、言ってみれば男性版 Spice girlsアメリカ版 SMAP のようなもの。もちろん「ロック」的ではない。

初日のトリの George Clinton & P-Funk All stars (ライブ当日には Parliament/Funkadelic となっていた) は「早く Bootsy を出さんか、ボケ」である。最後の 3 曲しか Bootsy が演奏しなかったんだもの。まあ、ともあれ George Clinton, Bootsy Collins, Gary Shider, Bernie Worrel という並びを見れただけでよしとしておこう。演奏的には過去のライブアルバムのようなズブズブで不可解な P-Funk 的なノリではなかったけれども。

ちなみに 30 年前のこの日はアポロ 11 号が月面着陸した日である。

二日目。

The Bruce Hornsby Group はビールを飲みながら聴いた。炎天下の冷たいビールにマッチした音楽でした。Dave Matthews Band は音響の良いこぢんまりしたホールで聴いてみたいように思う。その方が彼らの演奏の持つダイナミックさをもう少し楽しめるような気がする。

そして二日目のラインナップで一番楽しみにしていたのが Alanis Morrisette 。初日の Sheryl Crow と違って、「別に、観客がいてもいなくても関係ないもんね。ふふん」という感じで、自分の歌をずんずんと歌っていた。別に観客に媚びるところも少しもなくて、持ち前のすこしひねくれた雰囲気で楽しそうに歌っているのが印象的。でも、そのぶん観客としては少し突き放された様な感じがするのは仕方が無いのだろう。ある意味では予定調和的なところもあるし。

Chemical Brothers はビールの BGM としてグッド。踊るだけの体力もなかった。

三日目。

Willie Nelson の頃は芝生でうとうとしていたので、何もコメントできない。ただ、そんなにカントリー色が強くないんだ、という事だけは憶えている。その後の Brian Setzer も寝ころんで聴いていたんだけど、この並びは心和むところも感じられて、がんがんに日が照っているなかでは「あー、ビール飲みてー」という感じ。

そして Elvis Costello。彼のステージは彼とピアニストの 2 人構成で、彼の歌と話を中心にとても静かに進んでいった。僕は Elvis Costello はほとんど聴いたことが無いし、あのクソ暑いなかで黒いスーツを着てギターを抱えて歌っている姿にしばしの疑問を抱かなかったわけでも無いけど、でも、うまく言えないけれど、聴いていてとても気持ちがよかった。

Jewel 。ライブが始まるまでは「誰じゃこいつ?」と思っていたくらいに、彼女の名前を知らなかった。えーと、この人の歌い方にはちょっと苦手なところがあって、ライブを聴いても「うーむ」という感じだった。舌っ足らずで媚びたところがあるような歌い方はどうも苦手なんです。ある一面ではパワフルでいい声だとは思うんだけれど、でも。

Creed 。だれ、こいつら? つまらんかった。

そして、大トリのRed Hot Chili Peppers 。最新アルバムの一曲目 "Around the World" で始まったけど、PA の音がしばらく完全に止まっていた。つまり、観客席が無音の状態で演奏を続けていたということ。その後もいろいろトラブルがあり、ライブとしてはあまり良いものとは言えなかった。演奏にしても、彼らのステージを見るのは John Frusciante が脱退した '92 年 ('93 年かも) の日本ツアー以来だったけど、相変わらずヘタなんだかうまいんだか良くわからない演奏。

というわけで、彼らの Jimi Hendrix の "Fire" のカバー (彼らはこの曲を「母乳」というアルバムで過去にカバーしている) でライブは幕を閉じ、会場内のあちこちではたき火が始まり、そのために予定されていた Jimi Hendrix 追悼イベントは短縮され (Jimi Hendrixアメリカ国歌演奏が 3D でスクリーンに映し出され、観客が喜ぶという非常にアメリカ的なイベント) 、観客は荷物をまとめて車に乗って長い渋滞に巻き込まれながら月曜からの仕事に備えて自宅に戻る者がいるかと思えば、さっさと自分のテントに戻って 3 日間の疲れをとるべく早々と寝入ってしまう者もおり、また、たき火だけでは充たされずにイベント準備用のトレーラーや音響タワーや ATM マシン等をドカンドカンと破壊している奴らもいて、彼らがトレーラーや販売用テントにしまってあった物品を略奪したりしていると、今度はその騒ぎに対処するために州警察隊や警察や消防などが大がかりにわぁっと出てきて、騒動を鎮圧したり、火事を消火したりしているうちに夜はしずしずと過ぎ去っていった。

だいたい Red Hot Chili Peppers が "Fire" を演奏したり、ステージ上でギターに火をつけちゃうような Jimi Hendrix の追悼イベントの段階でその後の騒ぎを少しくらいは予想できただろう、と思わないでもないんだけど。アメリカ人てば。