科学的な手法で強くなったオークランド・アスレチックス

雪の乳頭温泉郷で温泉三昧に明け暮れつつ、こんな本を読んでいた。

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

進化しているように見える米国のメジャーリーグ MLB も、実は保守的な面が根強いことがわかる本である。登場人物はサンフランシスコから程近いオークランドを本拠地にするオークランド・アスレチックス (以下 A's) と同球団ジェネラル・マネージャーのビリー・ビーン。彼らが置かれている環境が次の二宮清純氏の解説でうまくまとめられているので引用してみると、

潤沢な資金を誇るチームが、ほぼそれに見合った成績を収めるのがメジャーリーグのみならずプロスポーツの常だが、アスレチックスにはこの単純な経済原則が当てはまらなかった。逆に言えば驚くほどの投資効果を得た。ローリスク、ハイリターン。<中略>

ともあれチーム成績と投資額をここに併記してみよう。まずはチーム成績。
2000 年、91 勝 70 敗
2001 年、102 勝 60 敗
2002 年、103 勝 59 敗
2003 年、96 勝 66 敗
4 年連続でプレーオフ進出という好成績だ。
続いて投資額(選手平均年俸)。
2000 年、115 万 6925 ドル (MLB 30 球団中 24 位)
2001 年、125 万 2250 ドル (同 29 位)
2002 年、146 万 9620 ドル (同 21 位)
2003 年、188 万 9685 ドル (同 20 位)
世界一の“金満球団”ニューヨーク・ヤンキースの約3分の1の投資額でほぼ同等の成績を収めた計算になる。

とあり、映画『メジャーリーグ』ではないけれど、貧乏だけれど強いベースボールチーム、それも「経験」と「勘」というあいまいで非科学的な手法ではなく、効率性を追求した科学的な手法でいかに作り出したかというのがこの本(そしてオークランド・アスレチックスとジェネラル・マネージャー ビリー・ビーン)のテーマである。

効率性の追求の一つとして投資効率がある。この本の前書きにはメジャーリーグチームの金銭勘定が次のように書かれている(マスターカードの CM っぽく読んでみてもらってもよい)。

ベンチ入り選手 25 人を確保するのに必要な資金:(最低) 500 万ドル

40 人の登録枠をすべて埋めるには:プラス 200 万ドル

これら合計 700 万ドルあれば 1 シーズン 162 試合中 49 試合程度は勝利できる(そうだ)

これを前提とすると、最低限度額 700 万ドルへの追加分で 49 勝以上の勝ち星をいくつ増やすことが出来るかが球団としての投資収益率である(そうだ)。この式に当てはめるとアスレチックスは 2000 - 2002 年のシーズンにおいて約 50 万ドルで 1 勝できた計算になり、メジャーリーグで最も ROI 効率のよい球団と言われている。逆にボルティモア・オリオールズテキサス・レンジャーズは投資効率が悪く、勝ち星一つに 300 万ドル以上費やしている。アスレチックスは投資効率を向上させるために、独自の基準で選手を評価し、チームの強化を行っている。

その一つがアスレチックスの攻撃面の基本方針である。彼らの方針はアウトカウントを増やさずに出塁することである。単純化すると、アウトカウントを増やす可能性の高いバント・盗塁をせず(バント・盗塁は、アスレチックスにおいては選手としての評価を下げる)、フォアボールでの出塁を含めて「塁に出ること」を高く評価するということである(フォアボールは塁上のランナーがアウトになる可能性がない)。この方針は、27 個のアウトをとられるまでにランナーを進める結果としてより多く得点したチームが勝つ、というベースボールのルールからすると当たり前の話なのである。というわけで、アスレチックスはノーアウト一塁の場面では、送りバントなんて絶対にしないのである(ランナーを二塁に進めても、アウトカウント一つ増やすことで得点期待率がかなり下がってしまうから。送りバントダブルプレーを避けたいという、選手と監督の責任回避的なプレーだそうだ)。

こういう攻撃をするチームの試合は面白いかというと、結構面白いのである。2002 年、アスレチックスがシーズン 103 勝した年にオークランドから車で 1 時間のサンノゼに住んでいた。知り合いの熱狂的なアスレチックスファンに連れて行かれたりして、年間で 15 試合ぐらいスタンドで見たのである。知らない選手のいるチームでも、応援しているチームが勝ってくれると楽しいのは想像に難くないかと思う。そして試合そのものも、スター性がある選手はいないものの(マリナーズとの試合で一番声援(=ブーイング)があったのはイチローだったし)、長短打(そしてフォアボール)を連ねて、どんどん点を取っていくのは見ていて面白いのである。

日本のプロ野球MLB 同様に封建制度で根強く保守的であることが判った訳だから、新規参入した楽天ソフトバンクを中心に球団経営のレベルから科学的な手法で効率的に強いチームを見せてくれると、新規参入した効果があるように思うのだが、どうかな。