PC を使わなくなるとき

自分の仕事に引き寄せてしまうのだが、NTTドコモのこのニュースが出たあたりから、エンタープライズにおける情報端末として PC を使わなくなる日は近いのではないかと思うようになった。

#というわけで、今日はメモ的に展開する予定。
#あと、伏線として gmail の様な話もあるけれど、
#話が逸れるのでここでは展開しないことにする。

NTTドコモFOMA無線LANのデュアル端末を販売開始」
http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000047668,20075782,00.htm

さらに、このニュースのすぐ後に、IBM の PC 事業売却のニュースが出た。

IBMのPC事業売却が正式決定--売却額は17.5億ドル」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000050156,20079163,00.htm

この IBM の PC 事業売却については、CNET で森氏が的確に分析している。

「PC中心時代の終焉が始まる」
http://japan.cnet.com/column/mori/story/0,2000050579,20079728,00.htm

 PCは特定のブランドの名の下で製造販売されていても、すでにその本質はアセンブリ(組み立て)でしかない。場合によっては、そのアセンブリすら廉価な人件費で製造可能な地域の下請け工場に委託されていることも珍しくない。また、製品の中核となるCPUはIntelAMDであり、OSはMicrosoftの牙城となっており、そのほかグラフィックチップやマザーボードなどの主要部品も特定少数のベンダーが牛耳っており、アセンブリだけではさしたる利益を得られない製品カテゴリーでしかなくなっているのが実際なのだ。そう、PCはコモディティと化したと、その生みの親が宣言をしたのだ。

このことは、今回のことがあったからより鮮明に理解されるようになってきたけれど、Dell の台頭を見ていると理解に難くない事実である。

じゃあ、PC の後はどうなるかについて、森氏はこう記している。

 CPUについては、IBMはさらに新たな挑戦を始めている。PowerPCのテクノロジーをベースに、ソニー東芝と共同開発している次世代アーキテクチャを有したCELLチップだ。CELLは、サーバとPCを飛び越した各種アプライアンスが物理的ネットワークを介して直接的に協働することが可能な、まさしく次世代製品となる予定であり、すでにワークステーションでの試験稼働が開始されているという。そして、CELLは来年にはソニー・コンピューターエンタテインメントの次世代ゲーム機PS3に搭載され、世界中に数千万という規模で広がっていくことが約束されたチップでもある。

ゲーム機として普及するのは生産のスケーラビリティを実現するには良いが、エンタープライズ基盤へはどう展開するのだろうかという疑問は残る。が、「物理的ネットワークを介して直接的に協働することが可能」というくだりから想像するに、メインフレーム・モデルからクライアント・サーバ・モデルを経て、ピア・ツー・ピア・モデルへの移行を予感させる。

さて。IBM のニュースで終わった 2004 年が暮れ、2005 年に入るとすぐに日立のこんなニュースが飛び込んできた(というかリークっぽいと聞いたけれど)。

「HDDを社内に置いたモバイル端末で情報漏えい防止、日立製作所
http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/it/352170

日立製作所は1月4日、ハードディスク装置(HDD)を内蔵しない新型のモバイル端末を利用した、情報システムを開発したと発表した。

これは、僕の理解では IBM とはまったく逆のアプローチで、メインフレーム・モデルに近いところに戻るように見える。新型のモバイル端末をダム端末(メインフレームで使用する端末の呼び名)で置き換えてみればなんとなく想像できるかと思う。

で、なぜ日立はこれを開発したか?ちょっと長いけれど引用。

同社によると、企業では相次ぐ情報漏えい事件や、2005年4月から全面施行される個人情報保護法への対策を迫られている。その一方で、在宅勤務やサテライト勤務により、自宅や公共の場所から社内ネットワークへ、携帯端末でアクセスすることも盛んになっている。

しかし、「一般的にモバイル端末は、盗難/紛失などによる情報の漏洩するリスクが高い。そのため、従来、モバイルPCでは、ハードディスクに対するパスワード設定やデータ暗号化といった措置をとられるが、盗難/紛失時にはモバイルPCに格納された情報も無くしてしまうという事実は否定できない」(同社)。

日立では、ハードディスク装置を社内に設置した専用サーバーにまとめ、各モバイル端末からネットワークを介して利用できるようにし、この問題に対処する。

確かに日本における個人情報保護法への対策というのは(特にエンタープライズにとって)無視できない問題である。米国での個人情報の取り扱いについては、実はあまり厳しくないことが、次の日経 ITPro のブルース・シュナイアーの記事から読み取れる。

カフカと“デジタル・パーソン”」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/Security/20050111/154594/

米国では,個人情報はその情報を集めた人物の所有物とされる。その情報を提供した人物の所有物ではない。個人情報に関する法律には例外があるものの,きわめてまれだ。また,欧州連合EU)が定めているような,情報を保護する包括的な法律は存在しない。カナダで見られる「Privacy Commissioners」(プライバシ委員)も米国には存在しない。米国のプライバシ関連法は,ほとんどが秘密を扱うためのものである。秘密にしていない情報については,その情報が広まることをコントロールすることはほとんどできない。

というわけで、日本で必要とされているような個人情報保護法対策や情報漏洩対策への要求度はあまり高くないと想像できる(個別の業界毎に法規制があるので、業界毎に必要な対応が異なる、という話は聞いたことがあるけれど)。

で、日立のニュースに続いて、今度は HP が PC 事業をプリンタ事業に統合するというニュースも入ってきた。

「HP、PC事業をプリンタ部門に統合」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000050156,20080090,00.htm

と、こういうニュースを立て続けに読んでいると、エンタープライズにおける情報端末として PC を使わなくなる日は近いのではないかと思うようになるのである。で、そのときに日本市場でキープレーヤーとなるのは日立やIBMのようなメーカー色が強いプレーヤーなのか、それともNTTドコモGoogle のようなサービス色が強いプレーヤーであるのかが、最近、頭の中に渦巻くことだったりする。